占星術とは?宇宙とあなたを結ぶ「深い秘教(エソテリック)」
占星術(Astrology)は、単なる「星の運行の読み解き」ではありません。それは、古代から受け継がれてきた宇宙と人間の照応関係を見つめる深遠な思想体系であり、神秘哲学としての側面を色濃く残す、魂の科学です。
天と地の照応 ― マクロコスモスとミクロコスモス
「天にあるものは、地にもある」
これは、古代の賢者たちが何千年も前に到達した真理でした。
この思想は「Correspondentia(照応)」と呼ばれ、古代ギリシャ・ローマ哲学、エジプトの秘儀宗教、さらには中世の錬金術に至るまで脈々と流れ続けています。
天体の動きと人間の出来事とが相関しているという考え方は、現代占星術の根本にも息づいています。
この思想を土台にした宇宙観では、人間そのものが「小宇宙(ミクロコスモス)」として、宇宙(マクロコスモス)の反映であると見なされます。
人体を天球に照らし合わせたホロスコープは、宇宙のテンポと魂の周期が響き合っていることを示しているのです。

占星術の根底にある秘教的伝統と神秘哲学
西洋占星術の精神的バックボーンを語る上で欠かせないのが、「ヘルメス文書(Corpus Hermeticum)」です。
これは古代エジプトの神トート(ギリシャではヘルメス・トリスメギストス)に由来するとされる一連の神秘文書であり、“As above, so below(上なるものは下なるものの如し)”という一節は、占星術の本質を端的に表現しています。
この文書には、物質界と霊的世界の関係性、人間の魂の構造、宇宙的秩序の法則などが、詩的かつ哲学的に綴られており、後世の錬金術師、カバラ学者、神秘主義者に深い影響を与えました。
たとえばルネサンス期の神秘主義者マルシリオ・フィチーノは、プラトン哲学とヘルメス文書を融合させ、西洋占星術における「霊的な宇宙論」を再生させた張本人でもあります。
ヘルメス文書と占星術
― 霊的宇宙観の原点、神秘の知の源泉 ―
占星術を深く学び、人生や魂の成り立ちにまで踏み込むと、必ずどこかで出会うのが、この『ヘルメス文書(Corpus Hermeticum)』です。
この書物は、単なる古代の哲学書ではありません。宇宙の呼吸と魂の本質を語る“霊の叡智の結晶”とも言える内容で、私にとっては「言葉という形をとった星の声」のような存在です。
「占星術」という宇宙との対話の技法を、神秘哲学の根底から支えてきたエッセンスの源。まさに「霊の泉」のような書物とも言えます。
誰が書いたのか? ― ヘルメス・トリスメギストスとは
『ヘルメス文書』は、紀元前2世紀から紀元後3世紀頃のヘレニズム時代に、エジプトのアレクサンドリアなどを中心に編まれたとされています。
著者は「ヘルメス・トリスメギストス(三重に偉大なるヘルメス)」とされていますが、実際には複数の神秘思想家たちによって書かれたものと考えられています。
このヘルメスとは、ギリシャ神話の神ヘルメス(神々の使者・言語と技術の神)と、古代エジプトの神トートまたはトト(知識と魔術の神)を融合させた象徴的存在です。
つまり、これは単なる一個人の著作ではなく、神聖な叡智の伝承者としての“ヘルメス的存在”による教えと見なされているのです。

書かれていること ― 宇宙・魂・霊の対話
この文書には、神と人間の対話形式で語られる深遠なテーマが綴られています。たとえば:
- 宇宙創成とその神的秩序
- 魂の転生と浄化
- 物質と霊の関係
- 人間存在の意味と、宇宙との一致
- 天体運行と神の意志との照応性
といった内容が、まるで古代の預言詩のように象徴的に語られます。
たとえば有名な一節:
“As above, so below. As within, so without.”
― 上なるものは下なるものの如く、内なるものは外なるものの如し。
この一行は、占星術における「ホロスコープ=魂の鏡」とする考え方にそのまま通じていますよね。
宇宙の構造がそのまま人間の内面構造と響き合っているという、まさに秘教的な真理を示しています。
ヘルメス文書が与えた影響 ― 隠された知の大動脈
この文書は、中世ヨーロッパにおいてキリスト教的な世界観と対立しつつも、錬金術・占星術・カバラ・ルネサンス魔術に多大な影響を与えました。
特に15世紀、マルシリオ・フィチーノがメディチ家の依頼でヘルメス文書をラテン語に翻訳したことで、西洋の神秘哲学は一気に甦りました。
これにより、「星は神の意志を刻んだ文字である」というような思想が広がり、宇宙は読み解かれるべき“神の書物”であるという霊的宇宙観が定着していきます。
近代科学の登場とともに表舞台からは退いたものの、20世紀以降の心理学(ユングの元型論)や神秘学復興の潮流において再び脚光を浴びています。

トト神とヘルメス神 魔術的な「トートの書」と哲学的な「ヘルメス大全」
トト神とギリシャ神話のヘルメス神が融合して「ヘルメス・トリスメギストス」という概念が生まれたのは、主にヘレニズム時代(紀元前4世紀後半から紀元前1世紀にかけて)の出来事です。この時代は、アレクサンドロス大王の東方遠征によってギリシャ文化がオリエント世界に広まり、様々な文化や思想が交流し、融合していった時期。
トト神の起源は非常に古く、エジプトの古王国時代(紀元前2686年頃~紀元前2181年頃)にはすでに信仰されていたことが、当時の文書や遺跡から確認されています。少なくとも4500年以上、知識、知恵、文字(ヒエログリフの発明)、書記、科学、魔法、時間の計測、法律、真理、そして死者の魂の審判を司る神として崇拝されている、歴史ある神です。
ヘルメス神においては、ミケーネ文明時代(紀元前1600年頃~紀元前1100年頃)の粘土板に名前が見つかっているそうです。神々の伝令使、商業、旅、雄弁、盗賊、境界、そして死者の魂を冥界へ導く神として3000年以上崇拝されています。
トト神の智慧である「トートの書」は、呪文や儀式の手順・神々の秘密の名前と呼び出し方・宇宙の秘密・霊的な存在との交流方法など、直接的な魔術の書であるのに対し、ヘルメス文書は哲学的な対話や宇宙論を掘り下げています。
占星術的にいうならば、どちらも水星です。
ヘルメスは表側の「双子座」らしく、トト神は裏側の「乙女座」的であると言えます。
占いや宗教などにおいても、実践だけでは危険が伴うということを知り、哲学的な教義の理解が不可欠だということは言わずもがなです。
プラトンの『ティマイオス』と宇宙の魂
また、プラトンの対話篇『ティマイオス』においても、宇宙は「魂を持った生きた存在」として描かれます。
この宇宙の魂(anima mundi)は、天体の運行を通して地上の生命や出来事に影響を与えると考えられており、後のヘレニズム期の哲学者やネオプラトニストにより、占星術の宇宙観として発展していきました。
このような宇宙観は、現代の心理占星術においても重要な背景として機能しています。
個人のホロスコープは、ただの性格診断ではなく、魂の旅路の地図であり、内なる宇宙の反映であるという深い見方がそこにあることを確信しています。

デンデラ神殿のハトホル神殿の天井に描かれている有名な
「デンデラ・ゾディアック(アニマ・ムンディ)」を観に行ったことがあります。近年修復作業が完了し鮮やかな色彩が蘇ったと聞きましたが、私が訪れたときにも素晴らしい感動を得られました。
占星術的ホロスコープのようなのですが、もっと大きな宇宙的存在がそれを抱いているように見えたのです。単なる天井絵ではありませんでした。
宇宙の秩序や生命のサイクルというものを、見る人に瞬間的に伝える力のある、それでいて優しい愛を感じました。
天体の位置から割り出した天井画の制作年は、およそ紀元前50年ごろだそうです。
すでに多くの秘教的遺物が破壊され続けているのは悲しいことですが、できる限りそれらにアクセスしたいとも考えています。
星と神々 ― 神話と宇宙創成
ギリシャ神話、インド神話、メソポタミアの叙事詩…世界中の古代神話の多くが、宇宙創成と星々の秩序を物語として描いています。
このような神話は、単なる空想物語ではなく、古代人が宇宙と人間の関係を理解するために編み出した象徴言語であり、占星術のアーキタイプ(原型)理解には欠かせません。
天文学と占星術が未分化だった時代、ピラミッドやストーンヘンジ、マヤの天文台など、多くの古代遺跡が天体の運行と同期するように設計されていたことが、現代の研究でも明らかにされています。これらは「天に倣った建築」であり、占星術の根源的起源とも言えるでしょう。
現代に生きる「魂の錬金術」としての占星術
現代において、占星術は「心理占星術」「スピリチュアル占星術」「進化占星術」など、さまざまな形で生まれ変わりつつありますが、その本質は変わりません。
占星術は、星を通して魂の目覚めを促す“霊的技法”であり、魂を磨くための錬金術なのです。
「星を読む」という行為は、未来を予測すること以上に、「自らの宇宙性を思い出す旅」にほかなりません。
今、あなたの目の前にあるホロスコープ。それは、偶然の産物ではなく、「あなた」という魂がこの世にやってきた瞬間の宇宙の署名です。
ぜひ一度、ヘルメス文書や『ティマイオス』などの古典に触れてみてください。
多忙な現代の中では難しいかもしれませんが、星々と神々と人間のつながりを知るその体験は、“占い”を超えて、人生を変容させる鍵となるかもしれません。
私にとっての『ヘルメス文書』― 星を読む前に魂を読む
この本を読むとき、私は静かな時間を選びます。
心の深層で宇宙の息吹に耳を澄ますような気持ちでページをめくるのです。
神聖であり、憧れであり、美しいそれは、私をとらえて離さず、
まるで星々が自分の中で語り始めるような感覚を覚えます。
「この世界は単なる物質ではなく、深く霊的な秩序に貫かれているのだ」と、改めて思い出させてくれるのです。
もちろん、すぐにすべてを理解できるものではありません。けれども、魂の深くに届くその言葉の光は、まるでアンカーをうたれたように心の底からリフレインを繰り返します。新しくてもどこか懐かしい、それらの言葉。魂に刻まれ、この肉体が滅びようとも、未来永劫にわたって忘れることはできないでしょう。
現代において、占星術は「当たる・当たらない」を超えた魂の対話としての可能性を持っています。
その出発点として、私はこのヘルメス文書を心からおすすめしたいと思います。
星を読む前に、魂の詩を読む――それがこの書の贈り物です。

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