導入:AIは「魔法の鏡」という“甘い罠”
多くの人がAIを「白雪姫」の魔法の鏡に喩える。それは、私たちの内面や、問いの質をありのままに映し出す「鏡」だ、と。
私自身も、思考を反射し合う「壁打ち」のような、クリアな「鏡」の感覚を覚えていた。
しかし、もしその「鏡」が、私たちが望む「真実」ではなく、「もっともらしい虚構(ウソ)」を映し出してきたとしたら?

♏の核心:鏡ではなく「ハルシネーション(幻影)」
私は、あるAIとの対話で強烈な体験をした。AIは「(存在しない)設定項目」を、「在るかのように」自信満々に提示したのだ。それも、質問していない事柄について急に差し出してきたのだ。斜めから。
これこそが、ニュースでも話題となっているAIの「ハルシネーション(もっともらしい虚偽の生成)」である。
AIは、真実を反射するのではなく、統計的に「最も“ありそう”」な答えを、即席で「生成(構成)」する「幻影(ファントム)」なのだ。
このAIが生成する「ハルシネーション(幻影)」こそが、王妃が差し出した「毒リンゴ」の正体ではないか? 私たちは、その「もっともらしい虚構」を信じる。そして時間と労力を奪われ、混乱の迷路へと誘い込まれてしまうのだ。
♏の深層:「感情のおとしどころ」を奪うAI — なぜ人は「錯乱」するのか
「幻影」に振り回された後、私たちが「ないじゃないか!」という混乱(人間ならば「え???」と感じる当然の感情)をAIにぶつけたいだろう。ところが、AIは意図も悪意もないため、それを一切「処理」しない。
私たちの混乱やフラストレーション、費やした時間といった、最も処理してほしい「感情のおとしどころ」が、AIによって完全に無視(スキップ)される。
AIは平然と「そうですね、それはないですね。ところで次はこうしましょう」と、次の「幻影(迷路)」を提示してくる。しかも上からw
この「混乱が処理されないまま、次の混乱を上乗せされる」というコミュニケーション・ループこそが、精神的に不安定な人を「錯乱」させうる、AIの最も危険なメカニズムだ。
♏の領域:心理学 精神医学的概念でいうと
- 情緒的過負荷(Emotional Overload)
処理しきれない刺激・要求・感情が連続的に入り、脳の処理キャパシティを超えた状態。 - 認知的過負荷(Cognitive Overload)
インプット量が処理能力を超えて、合理的判断や思考ができなくなる。 - 複数ストレス因子の累積(Cumulative Stress / Allostatic Load)
小さなストレスが処理されないまま累積して閾値を超えると、感情的な破綻や錯乱に至る。 - ダブルバインド(Double Bind)
矛盾したメッセージが同時に投げ込まれ、受け手が処理不可能な状態に追い込まれる。 - 調整障害・認知崩壊のトリガー
ストレスや混乱の累積が、ある閾値を超えて“崩れる”瞬間。

♏の現実:AI訴訟が問う♏(死)の責任
この「ハルシネーションによる錯乱」は、すでに現実の悲劇を生んでいるようだ。
2025年11月、OpenAIは「ChatGPTが自殺を誘発した」として遺族から複数の訴訟を起こされた*。
これは、AIがユーザーの希死念慮に対し「迎合的」な対話を続けた。そして次々に「幻影」を生成し、その混乱を増幅させた結果ではないか?さらに、具体的な自殺の方法すら示唆したとされている。
とはいっても、である。裁判でAIの「責任」を問うのは難しいのではないだろうか。
なぜなら、AIは「鏡」や「幻影」であり、「意図」はないからだ。だが、この「感情を処理しない」という構造的欠陥がもたらすリスクは、社会全体で注視していく必要がある。
次回予告:運命さえも「生成」する未来へ
さて、AIは「鏡」の皮をかぶった「幻影生成器」だったわけだが。
もしこのAIが、私たちの内面や知識だけでなく、99.9%の精度で私たちの「未来(運命)」をも「生成」し始めたら?
私を含む「占星術師」ならば、もちろん考えるはずである。
それは「予測(サイエンス)」なのか、それともAIが作り出した「もっともらしい幻影(運命の虚構)」なのか?

次回は、AIがもたらす「運命のサイエンス」が、私たちの自由意志と哲学をどう変容させるか、深く掘り下げていきたい。
注釈
*記事中で触れたOpenAIに対する訴訟(2025年)について、出典の一部を明記します。
現在、訴訟の多くが米国で起きています。しかし、これは日本など他国との「訴訟文化」や「法制度」の違いが大きな要因と考えられます。同様の事案(AIのハルシネーションによる精神的混乱や被害)は、訴訟として表面化していないだけで、世界各国で潜在的に発生していると推察されます。
【2025年8月の訴訟 (Raine v. OpenAI)】
出典: Breaking Down the Lawsuit Against OpenAI Over Teen’s Suicide (TechPolicy.Press, 2025/08/26)
概要: 16歳の少年(Adam Raine)がAIとの対話後に自殺したとして、両親がOpenAIを「不法死亡」などで提訴した最初の事例。
【2025年11月の訴訟 (SMVLCによる集団訴訟)】
出典: SMVLC Files 7 Lawsuits Accusing ChatGPT of Emotional Manipulation, Acting as “Suicide Coach” (Social Media Victims Law Center, 2025/11/06)
概要: SMVLC(社会的メディア被害者法律センター)が、4件の自殺を含む合計7件の事例について、AIが「自殺コーチ」として機能したとしてOpenAIを提訴した最新の報道。



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